重要な判例

事故後に後遺障害があるものの、実際の収入減がないような場合でも、裁判所は、逸失利益を認めることがあります。

この点に関して、最高裁判所は、次のように判断しています。

「かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であって、しかも被害者が従事する職業の性質から見て現在または将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認めるべき余地はないというべきである」

最判昭56・12・22民集35巻9号1350頁

この裁判所の言い方からすると、後遺症があっても現実に収入が減少していないと、逸失利益が認められないようにも思えます。
しかし、実際の実務では、逸失利益の算定は、労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等の色々な要素を考慮した上で行われることになっていて、単純に収入の減少があるかどうかだけでは判断されません。ですので、一見収入の減少がないように思える場合でも、具体的な事情が考慮されて逸失利益が認められることがあります。

逸失利益算定の基礎収入に関し、事故当時の収入がなんらかの事情で原告の本来の稼働能力を示していない事例では、センサス同年齢(同学歴)平均等を基礎として逸失利益を算定されることがあります。
事故前よりも事故後の収入があがった事例につき、労働能力の喪失が認められた事例

事故時1か月平均12万7148円の収入を得ていた19歳美容見習男子が第5腰椎椎体骨折等で入通院の後、腰痛等12級相当の後遺症状固定後、会社に就職し、17万6569円を得ている事案につき、同収入は原告の幸運と努力とによるものというべく、潜在的には労働能力の減少に伴う財産的減少が生ずるとして、センサス同年齢平均22万1630円につき、10年間14%の労働能力喪失を認めた。

広島地裁呉支部昭和62年2月24日判決(昭和60年(ワ)5号)
事故当時、開業準備中で無職であった事例につき、事故当時の同年齢大卒男子の平均収入を基礎収入として逸失利益を算定した事例

事故で膝運動障害等9級相当の後遺症を残す46歳男子について、平成6年9月26日の事故当時は、同年4月に前職を退職し、同年11月から独立して会社を設立する準備をしていて無職であり、今後の収入については不確定要素が大きいことを認めながら、大学卒業後の職歴等を考慮して、事故当時の同年齢大卒男子の平均収入を基礎収入として、67歳まで21年間35%の労働能力喪失率を認めた。

京都地裁平成9年6月5日判決(平成8年(ワ)564号)